佐藤総合計画


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社長 細田雅春メッセージ

農業の未来と都市化
都市と農業の融合が示す国土の未来 高効率で多様性に富むコンパクトシティー実現

 環太平洋連携協定(TPP)が鳴り物入りで大筋合意を見た。これまで関税が撤廃されたことのない農林水産品834品目の半数に当たる約440品目の関税が撤廃されることになった。ただし、重要5項目、すなわち、米、麦、乳製品、牛肉・豚肉、サトウキビなどの関税は維持されるという。ミニマムアクセスの認可や上積み、関税率の段階的引き下げなどの問題も残されている。今回の重要5項目については、そのほとんどが譲歩してはいないということだが、迫りくるTPPの圧力に対し、日本の農業政策がどこまで対応が可能なのか、その進路が示されぬままの大筋合意という決着は何を意味するというのだろうか。これだけでは当事者である農業従事者たちの深刻さは一向に解消されることはない。当事者に個性化や強い農業を生み出す工夫を強いても、問題解決の姿は見えてこない。このような状況では、日本の農業政策の抜本的な改革ビジョンに期待はできない。

−情報技術活用「施設化した農業」

 一方で、よく引き合いに出されるのがオランダの事例である。参考になる点は大いに取り入れるべきであろう。国土面積は九州と同程度の小国だが、農産物については米国に次ぐ世界第2位の輸出大国である。オランダは、その地勢的特徴や立地性などさまざまな条件のメリット、デメリットを最大限活用して、極めて高度なハイテク農業に力を入れてきた。国土の狭さや干拓地であるという悪条件の克服、1990年代後半から競合するEU(欧州連合)諸国への対応策としてIT(情報技術)を活用するための環境づくりに国を挙げて取り組んできた。オランダの条件とは以下の3つだ。その一つは、狭い国土、そして国自体が陸続きであるということ。さらに、北国という気象的条件だ。こうしたどちらかというとマイナスの条件を逆手にとって、農業の効率や生産性を高めるために、生産品目の限定と合わせて、自然の大地や気候に任せるのではなくITを活用した「施設化した農業」に踏み込んだ成果が今日の農業立国としてのオランダの姿である。

−都市と対立、孤立する農村

 ではわが国の農業問題はどうだろうか。日本の国土もオランダ同様、広くはない。従って米国のような、機械による大規模農業に切り替えることも容易ではない。
 いずれにせよ、単に国内の農業の孤立した世界にとどまりながらの展望を期待することは極めて困難であることは容易に推測ができよう。とりわけ日本は戦後の農地改革という節目があったにせよ、狭隘な農地による前近代的で小規模、かつ家族的生産体制が農業という枠組みを作ってきた。
 そしてさらに重要なことは、西洋的価値観に基づく国土開発という近代化の思想である。近代社会において、近代都市計画論的にいえば、都市という存在は、周縁の農村部とはその役割も性質も対立する概念としてとらえられ、相互に距離を置いて支え合うという考えを支配的に、構造化されてきた。そうした理念が、日本の農村の孤立をいっそう促進させた理由にもなっている。
 現在では、そうした対立する概念そのものが揺れ動き始めてきた。いや、成熟社会、少子高齢化、産業構造の変化、社会観・価値観の多様化など、さまざまな要因によって、動かざるを得ない状況が発生してきたと考えるべきなのであろう。一方、IT社会の必然性は高まるばかりである。その状況下で、地方農業は、他の産業と比べて、孤立する途を歩んできたと言える。
 今日、都市部の住宅地では、空き家や空地が目立つようになってきている。一方、農村部においても、休耕地が拡大し、高齢化によって世代交代もできないまま放置されるばかりである。このような事態に至っては、もはや都市と農村という区分けは成り立たないことは明らかだと言っていいだろう。既に述べたさまざまな状況が示しているように、都市部と農村部が融合する必然性が浮上しているということではないのだろうか。そして、その融合した姿こそ新しい日本の国土のあり方を示すことになるのではなかろうか。

−建築家の介在が施設化には必要

 しかし、ただ単に両者が混じりあうだけでは意味がない。オランダのようなITを駆使した「施設化された農業」を都市部に引き込み、農産物の輸送や販売を都市活動の中に組み込むことが必要なのである。いまだ研究の余地は残されてはいるが、IT化とコンピューター制御の活用のみならず、遺伝子操作による生産性の向上なども踏まえるべきだろう。大規模な農業が営めない、比較的狭隘な土地でも「施設化された農業」を可能とし、極めて高効率な生産性を実現できる品目や方法に歩を進めるべきなのである。
 そして、その施設化には、既存都市の景観にも配慮し、建築家が取り組む必要がある。「ハウス栽培」などというレベルの概念ではない、都市空間にふさわしい優れた構想・デザインに基づく施設化の方向を持たねばならないことは言うまでもない。
 一方、既存の地方の農地をすべて都市化すべきでもない。むしろ、地方の適性を考慮しながら大規模な農地形成ができれば、大資本の導入も図りつつ、高度な機械化・集約化による農業も進めるべきであろう。
 もちろん、効率性偏重の過度な栽培品目の限定は考慮すべき問題だ。日本の伝統を色濃く残すものや、特徴的なブランド農産物はもちろんだが、多様性を担保するためには、小規模な菜園など身近な存在も残していく必要があろう。日本の農業の弱点は、大半が既存の体制に依存し、常に弱者の立場に立ちながら都市のサポート役を引き受けてきたことに起因するのだが、高齢化、人口減少社会にあっては、もはや今までの概念の枠組み内での農業生産を維持できないことは明らかである。
 本稿で述べたいことは、農業の都市化であり、都市との融合である。すべての人が農業にかかわれるような都市農業の構築を考えることが、日本のこれからの未来を築くという提言である。多くの高齢者や若者が都市農業にかかわれるようになれば、新たな農業の可能性が見えてくることになろう。農産物の生産過程の可視化なども、農業への関心を高めることになる。都市機能にとっても、都市景観にとっても、新たな都市の姿が見えてくるに違いない。そして、その姿の中に、環境や場所の違いによるさまざまな種類の作物の栽培をはじめ、効率性だけではない多様性に富んだ世界が開けるだろう。そこに、世界に先駆けたコンパクトシティーの新しい姿も見えてこよう。

日刊建設通信新聞 2016年1月22日掲載



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