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社長 細田雅春メッセージ

近代建築と、現在という状況
建築素材の開発と時代が生み出す建築の現在

 年末年始にかけ、久しぶりにヨーロッパに滞在した。休暇の名目ではあったが、EU(欧州連合)が現在どのような状況に置かれているのか、イギリスのEU離脱が何をもたらそうとしているのかを自分の目で確かめたかったのである。また、米国ではトランプ大統領の誕生前夜でもあり、世界情勢が驚くほど大きく変わろうとしている状況下で、日本はどのように見えているのかなど、気になることが満載の滞在であった。
 しかしながらこうした状況下にあっても、建築家としての習い性である都市や建築に対する関心を避けて通れず、各地の現代建築はもちろん、近代建築や古典建築を見て歩くことになった。とりわけスペイン・バルセロナでは、アントニオ・ガウディの名作『グエル邸』の内部空間に大きく触発され、改めて現代建築、そして近代建築がもたらしたさまざまな「功罪」について考えさせられることになった。

−工業化が大衆社会つくる

 近代社会は、17世紀に始まる市民革命、そして18世紀後半からの産業革命が引き金となって工業化と大衆社会が強く結び付き、19世紀から20世紀中葉にかけ、工業化社会として開花した。経済性を追求し、安価で質の高い製品を大量に生み出した。それらは画一的で均質化されたものでありながら、広く社会に浸透し、大衆社会というトレンドをつくり上げることに貢献してきたのである。
 建築においても、芸術と技術を融合させようしたバウハウスの運動などにより、近代建築が生まれることになった。近代化のイデオロギー表現としての建築は、多くの建築家や芸術家、工芸家に支えられてきた。とりわけル・コルビュジエやドミノシステムや近代建築5原則、あるいはミース・ファン・デル・ローエのガラスの建築やユニバーサルな空間表現などは、今に至るまで有効な建築手法として、現代建築にも生かされていることは言うまでもないだろう。
 しかしその一方、新たな素材の開発と建築への応用にはさまざまな功罪が混ざり合ってしまっている。開発当時は極めて有用であったとしても、時代を経た後の社会から見れば多くの問題をはらむ素材は多い。有用性、すなわち「功」がそのまま、あるいはそれ以上に価値が評価されている場合はよいが、その逆、つまり「罪」とされる場合をどう考えるかという問題提起である。

−素材がもらたす功罪とは

   近代建築を推進してきた建築の主要な構成素材はコンクリート、鉄、ガラスである。それらは明らかに「功」として建築に寄与してきた。さらにはアルミやステンレス、チタンなど建築へ向けた素材の開発も次々に進められ、安価に量産化されて活用されているという事実は現代社会の要請にも確実に応えているという「功」の側面が強い。
 さて建築は古来より重力の克服、重力からの解放という重いテーマを背負わされてきた。近代建築においては建築構法はもちろん、建築素材も工業化を背景にさまざまな軽量化への取り組みを行ってきた。
 ここで特に強調しておきたいのは、経済的合理性への強い傾斜である。製品価格を下げるためには大量生産することが必須だが、製品自体の汎用性を高め、さらに高性能化も期待された。それが工業化と近代化の最終目標とされてきた。高性能でありつつ、安価でなければ市場は受け入れない。こうした相反する課題を超えることができた素材の多くは、近代建築から現代建築へと受け継がれてきている。石油を原料とするプラスチック樹脂製品が代表的なものであろう。

−安易さが空間の個性殺す

   しかし、本稿で特に考えたいのは「プラスターボード」という素材の功罪についてである。耐火性、防火性、遮音性や断熱性に優れ、軽量で加工性も高く、その上、廉価であるという秀でた性能を持ち合わせているが、建築空間を構成する手段として見た場合には、まさに近代建築が指向していた画一化、均質的空間、フラット表現などという方向と完全に一致していた。これまで、これほど時代の要請と建築思考と完全に合致した素材はなかった。
 しかしながら下地材とはいえ、そのパーフェクトな性能による高い使い勝手ゆえに多用されることで、かえって空間の個性を殺してしまう傾向を助長させてきた。もちろん、空間のフラット化を促進させてきたという結果自体は、近代建築の向かうべき方向に、この素材の特性が非常にマッチしたからである。天井材に良く使用される岩綿吸音板なども同様である。
 では建築において、このような素材の功罪はどこにあるのだろうか。端的に言えば、設計者や使用者の素材の選択を安易なものにさせてしまいがちだということだろう。そうであれば「安易な思考」に陥らないよう、素材の選択について、原材料に至るさらなる吟味が必要になるだろう。あえて言えば、素材の選定は現代社会の複雑さ、成熟性、予測不可能な混沌さの中にいる建築家が取るべき建築に対するスタンスの問題でもある。

−材料が決める建築の様相

   それは行くつくところ個の存在のプレゼンスに収れんする。その意味でも、個性豊かな感性とニーズに応えるために、現代建築には、表現の多様性にも十分応答可能な材料の選択が不可欠になるということなのだ。
 ここで、冒頭の話に戻ろう。グエル邸の内部空間についてである。例えば、重厚な立体感を醸し出す寄木細工による天井や壁面は部屋ごとにデザインが変えられ、多様に表現されている。そのほかアイアンワークをはじめ、多種多様な素材を用いて表現された重厚な個性が空間を支配している感覚に圧倒された。現代建築のプレーンでフラット、均質的な空間とは無縁である。
 こうしたグエル邸での体験、すなわち多様に設えられた個のための空間体験が、現代社会、近代建築から現代建築に対する問題意識と出会い、空間の表現と素材との関係の深さ、また素材それ自体の功罪について、多くを考えることになったのである。
 無論、功罪の振れ幅は一様ではない。評価と選択の幅は設計者、使用者に委ねられている。しかしながらここでは1つの問題提起として、素材が決める建築のありようを考えてみた。旅から始まった、近代建築から抜け出て久しい現代建築への1つの回答である。

日刊建設通信新聞 2017年2月28日掲載



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