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社長 細田雅春より

代表取締役社長

弊社代表取締役社長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。

都市の先見性と長期的変容を学ぶ
ビジョンと指針の不在が最大の問題

いま、日本の進路が大きな変曲点を迎えつつあることは多くの人が感じ始めている事柄であろう。政治経済は無論のこと、人口減少に伴う都市の構造的あり様については無策といっても過言ではないほどだ。地方都市の衰退、タワーマンションの乱立、都市部の空き家の増加と対策の遅れ、そして何よりも指摘しておきたいのは、都市部の道路環境整備の遅れである。例えば狭あいな道路に通学路が設定されていて、歩行者と自動車が混在するという危険な状況は未だ解消の見通しすら立たない。

一方、2027年の開通が予定されている品川発のリニア新幹線、鉄道各社の相互乗り入れによる都市間交通の利便性向上など、大動脈インフラには注目が集まり、東京という大都市圏をマクロに見た場合の新たな開発が勢いを増しているが、既に述べたように、都市内部の環境インフラというミクロな観点から見た整備はほぼ手つかずの状態である。

都市全体を構想するビジョンの設定とそれを実行する「長期的で骨太な行動指針」が持てない状況に最大の問題があるのだろう。都市は常に社会の変化にリンクして変容する。日本の都市も、人口増加に伴って発展してきた歴史を持つが、その発展の仕方は主として郊外へのスプロール現象であった。現在、そうした都市構造では、人口減少などに伴いシュリンクしつつある現実に対して十分に対応できない状態になってきている。一方では経済的な安定も求められるなど相反する課題に応えなければならない状況があり、日本の都市政策の不透明さが問われだしていると言えよう。

コペンハーゲンの都市政策に注目

そうした意味で、北欧の小国デンマークの首都・コペンハーゲンの都市政策に注目したい。ご存知の向きもあろうが、改めて、その骨太で持続的なプロセスの先見性に学び、継続することの重要性を参考にしたい。

デンマークは九州ほどの広さ、4万3098km2の面積を持つ人口580万人、400以上の島々から成り立つ立憲君主制国家である。何よりも幸福度世界一を誇る国であり、原発を導入せず、風力などの再生エネルギーを積極的に取り入れる政策などで世界の注目を集めている。

コペンハーゲンは、島の一つであるシェラン島に位置する人口60万人ほどの都市であり、首都圏では160万人ほどの人口を擁する。この大都市圏における都市政策として、1947年に策定されたのが「フィンガープラン」である。コペンハーゲンを掌に見立てて、そこから5本の指(フィンガー)状に鉄道が郊外に延びる形で、既存の地方都市の発展の可能性を担保しつつ、急激な人口増加をコントロールしようとする計画である。各フィンガー間は緑地として開発を抑制し、森や湖水の確保を図っており、今日でも「フィンガープラン2007」として継続されている。現在、渋滞問題などに対処するため、フィンガー部の駅周辺では半径600m圏内にオフィスビルや商業施設など大型施設を集約し、多様で充実した交通ネットワーク・システムを軸に、コンパクトな都市構造を形成している。

コペンハーゲン市内を歩いていると、自転車専用走行レーンの充実ぶりには目を見張るものがある。自動車の規制や駐輪場の整備などの施策により、市民の移動手段のうち約30%が自転車利用であると言われている。

時代の変化に合わせて修正

ここで特に注目したいのは、日常的な利用者の視点に立った政策の実効性である。自転車の日常的利用はもとより、障害者やベビーカーといった交通弱者への配慮など、方策も枚挙にいとまがないが、重要なのはこの計画の先見性だけではなく、「計画の長期的継続性」である。47年の策定以来、このフィンガープランは70年を迎えようとしている。その間、都市のそれぞれの地域は発展や成長、さらには衰退を経験してきたが、理念は継承され、時代の変化や技術の進歩に合わせて修正が加えられてきた。

例えば、各自治体にまたがる鉄道路線の見直し、地下鉄の整備や次世代型路面電車システム(LRT)とバス路線の相互連携などである。日本の大都市とは異なる状況や背景があるとしても、こうした整備が交通インフラの充実と職住近接の環境実現にも大きく貢献するであろう点には注目しなければならないだろう。

日本の都市整備は、どちらかというと産業構造との関係に重点を置きすぎているように思われる。コンパクトシティー、さらにはスマートシティーを目指すのであれば、コペンハーゲンの取り組みが示唆するように「長期的実効性を持つ先見的なプログラム」をしっかり策定することが必要ではないだろうか。

日本でも、人口減少に伴って都市問題は大きなテーマとなり、富山市や青森市でもコンパクトシティーを志向する施策が進められてきた。その実効性についてはさまざまな意見があり、疑問を呈する向きもあるが、2014年に設けられた「立地適正化計画」はそうした計画を後押ししようとしている。未だ6年にも満たない期間でコンパクトシティーへの評価が可能なのか。改めて、デンマークの都市政策の先見性と、長期にわたる継続性を踏まえた議論を深める必要があるように思う。

都市とは一朝一夕で出来上がるものではない。デンマークが幸福度ランキングで世界一位の意味を考えることも日本の課題ではないだろうか。

日刊建設通信新聞
2020年4月8日掲載
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今、アテネ憲章に代わるもの―都市の形 – 多様性を包摂する社会で建築家は何を示せるか
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都市の先見性と長期的変容を学ぶ – ビジョンと指針の不在が最大の問題
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