会社案内

社長 細田雅春より


弊社代表取締役社長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。
2013年の新たな都市像を描く
複層的社会の到来―ネットスペースとコンパクト・シティーの可能性
複層的社会と個性の反映
時代はすでに、「工業化時代の生産と経済が直結した成長社会」が終わり、いわゆる成熟社会を迎えている。成熟とは、今までの成長とは異なる新たなる尺度・枠組みで世界を見る視点が必要となる時代であると考える。
それは、経済的成長や進化がなくなる社会という短絡した捉え方ではない。従来の均質的で、単一志向、効率一辺倒の平面的直線的思考や開発(成長・進化)とは異なり、地域で活動する人たちの社会参加を促しながら、その地域の特色や個性が街に色濃く映し出される新たな都市の姿と、いまや止めることはできないほどにグローバルな勢いで拡大しつつあるネット社会との立体的空間を持った、「複層的社会の到来」である。
変化の始まり
次第に現実化しつつある、少子高齢化による人口減少は、地方ばかりでなく、大都市にも大きな都市再編の流れを生み出している。すでに市町村の合併による公共施設や学校などの統廃合による新たな建築の個性化が始まり、商業施設ですら、いままでの大量の商品の陳列型からラウンジなどを設けた個性的な陳列配置に大きく変化し始めている。ライフスタイルの変化と個性化は、着実に始まりつつある。
「さらなる成長=ネット社会」とコンパクトな都市空間の個性化
工業社会の格差なき均一化による「生産性と経済性」の直接的な関係によって構築されてきた都市空間は、次第に現状との決別を余儀なくされつつある。一方ネット社会は、そのような現実の空間とは無縁で、バーチャルな市場経済を加速させ、グローバル化させつつある。その結果、現実の生産性とは距離を置いた「ネット社会による経済性」は、明らかに現場の持つ空間とは次元を異なるものになりつつある。
換言すれば、現実の都市空間は快適で個性的な空間を意図して、直接的経済取引ではなく、むしろ経済的利益とは相矛盾する空間をも許容し、共感や関心を呼び込む魅力を発信して、多くの仲間を誘い込む媒体となる。こうした共感や関心でつながった、いわば同志(会員)によるネット社会で経済的利益をあげるのだ。そして都市空間は、ネット社会のショールームのようなアンテナショップ的効果を併せ持ちながら、魅力的で個性的な、性格を前面に打ち出すことになる。
ネット社会ではさまざまな規模の経済取引が世界中に広がり、巨大な市場に展開される。まさにグローバルなレベルに展開するのである。すなわち経済の世界はネット市場で今までとは次元の異なる、即時的でグローバルな取引へと移行することになる。この現実を止めることは誰にもできない。
その反面、現実の都市空間は、より人間的でコンパクトで、個性に満ちた空間にあふれたものを志向することになる。人口減少や高齢化社会にも相応しく、しかも文化的でヘリテイジを尊重できる持続性が担保された、自然としなやかに共存する都市空間ができあがると考える。
地方都市の台頭
大都市と地方都市の差異も顕著になる。大都市は高度情報社会に相応しい豊かで魅力的な最先端な都市の姿を高めることになるが、一方、地方のそれは、大都市にはない個性的な地方の持つ風土の性格をいかんなく発揮した都市として見えてこよう。小さいながらも、豊かな自然と共生し、自律性を高め、多くを大都市には依存しない自活的都市の姿が浮上すると考える。
複層的社会=コンパクト・シティー+ネット・スペース(社会)の出現
こうしたコンパクト・シティーの実現は、ネット型社会と複層することにより、いままでの平面的で一元化された都市構造とは異なり、大きくなくとも、魅力的な新しい都市の姿を出現させうる「複層的社会」となる。この新しい都市社会を目指すこと(地上ではコンパクト・シティー、ネット社会ではグローバル)が、われわれ建築家の描く都市像である。このように、それぞれの都市空間での生活者は、経済的富裕層も弱者も対等に「それぞれが趣味や関心を共存」させられる社会、今までにない「それぞれが豊かさを共有」できる社会に身を置くことになる。そこにコンパクト・シティーの都市像を描く本質があるのではないかと考えたい。
このコンパクト・シティーの出現には誤解を招くことなく議論を深めていきたいと思う。
2013年1月24日掲載
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