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社長 細田雅春より

代表取締役社長

弊社代表取締役社長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。

美しい日本の国土景観を未来に残そう
建築家として防潮堤建設をめぐる問題を考える 冷静な分析と判断力を肝に銘じよ

2011年の東日本大震災から3度目の年を迎えた。あの大惨事が引き起こした痛みと衝撃はきわめて大きかったが、いまその記憶が風化しかけているようにも思われる。いま一度思いを新たに、震災後の日本の姿を描く必要があるのではないだろうか。

かつて日本の経済成長華やかかりしころ、欧米の識者から日本人の暮らす住環境の貧しさを「ウサギ小屋」と揶揄された。「JAPAN AS NO.1」の未来が待望されていた時代である。その後、日本の都市環境は確実に進化して、歴史の重厚さや都市景観の統一性など及ばないところもあるにせよ、欧米にも肩を並べることができる水準に近付いてきた。

しかしながら一方、国土が持つ日本の自然の保全や美的環境へ向けた配慮がどこまで追求されてきたのか、疑わしく思える点は少なくない。経済至上主義が依然優位に働き、その流れは止むことはない。むろん、経済成長と物的都市整備の実態がきわめて近い関係でリンクしてきた事実には大きな意義はあろう。

一変させた東日本大震災、さらに諸問題が顕在化

この安定を示していた事態を一変させたのが東日本大震災である。そしてその時期と重なって日本の少子高齢化、人口減少の実態が現実化してきた。さらにはデフレ経済のシュリンク状態と併せて1960年代から70年代にかけて建設された都市インフラが耐久年限を超え始め、財政負担の限界などと合わせて日本の社会経済環境、物的都市環境の問題が一挙に顕在化し始めたのである。

多くの日本人は、この大惨事を契機としてさまざまな問題を炙(あぶ)り出し、議論を進めてきた。これからの国家像やビジョンづくりの必要性を求める声が各界から出始め、国はただちに復興庁を立ち上げ、日本再生の機運の盛り上げと意気込みを示してきた。その間、国と自治体と民意の間にはズレがありながらも、被災者の懸命な合意形成を図ろうとする自主的努力やNPOなどの地道な活動もあって、遅々とした歩みではありながら、変化の兆しは見え始めてきた。もちろん現実には、仮設住宅問題は、みなし仮設住宅を含めても解消の見通しが立っているわけではないし、依然元の平地に住み続けたいという住民も少なくない。だが、住宅の高台移転や水害を考慮した平地での公共施設の再建など、それぞれの立場を超えた懸命な努力の成果が実り始めてきた。しかしながら、こうした被災地側の地道な、命をかけた努力にもかかわらず、残念ながら被災地や国民に届けられるべき、これからの国土や社会システムの新たな構図に対する可視化されたビジョンが何一つ示されないまま、デフレ脱却こそが新しい日本の未来を描くと言わんばかりの強引なシナリオが描かれている。

グランド・デザインなき未来への、つきない不安

実態なき株価や円安という虚構の経済復興のムードが示され、日本のそうした動きに大企業や海外の投資家は敏感に反応し、再び過去の成長と同様な成長のイメージを語り始めた。いまに至っては、こうした先行するイメージに実体の社会・経済が強く連動することを期待するばかりだが、グランド・デザインなき未来に対する不安は尽きない。

さて、このような日本の状況と背景の中、いま一兆円という国費を投入し、日本の美しい海岸線を、高いところでは16mもの防潮堤によって囲い込み、津波や高潮を防ごうとしている。確かに被災当時は、津波の恐ろしさに圧倒され、その直接的被害の排除だけを願って、生命や財産を守るという旗印の下、想定外の津波でも耐えうる高さと強靭性を持った防潮堤を建設することにほとんどの関心が集まっていた。

ただちに、国は防潮堤の建設を決断し、自治体もそれぞれ独自に計画を決めた。国は東日本大震災の特例を設けて執行限度を2015年度末までとする25兆円の復興予算を計上した。それを執行し整備するのは自治体であった。しかし現実はその半分以上が手付かずのままになっている。ここで問題を顕在化させているのは、自治体の予算執行の期限内に実行するために、実態とのすり合わせや民意の合意もないままに計画のプログラムを強引に作成して急いだことである。そこにさまざまな矛盾が露呈し始めることになったのである。

防潮のためだけの防潮堤建設では解決しない

時の推移と共に、関係者の多くが冷静さ、また判断力や分析力を回復して、防潮のためだけの防潮堤建設では問題解決には至らないということが見えてきたと言えるのではなかろうか。安全性とは本来、そうした相互の関係の中で成り立つことなのである。

防潮堤第一への反論のいくつかを紹介しよう。

  • 高台移転が合意された以上、港湾整備で巨大な防潮堤は不要である。
  • 元の平地は最小限の防潮堤によって守られた、元の仕事場を再生したい。
  • 美しい海岸線と共に観光地として生きたい。
  • 街としての集積性がなければ、分散された街はさびしい。
  • 過剰な施設は不要である。
  • 逃げる意識が重要で、安全な場所(高台など)へ逃げる道筋を確保し、常に学習しておくことが重要だ。美しい海岸線はわれわれのかけ替えのない財産だ。
  • 災害の最大の防御は災害の知識を持って備えることである。海からの恐怖を塞ぐことが防御ではない。安全な場所に素早く逃げることである。
  • われわれは安全も利便性も景観すべてが生活の基盤であるという認識が大切だ。安全だけが突出すべきではない。

脅威をも内包した自然に抱かれ

以上のような意見が、被災地の住民だけではなく、さまざまな立場から出始めている。政府でもこうした動きを受けて再検討の機運が見られるようだ。財務省も復旧予算の期限について柔軟な対応を行う方向に舵を切りつつある。その上で、われわれ建築界に身を置く立場として肝に銘じなければならないことは、冷静な分析と判断力だ。それは都市や建築を設計する行為とも同義である。常に等価に、安全にも配慮し、利便性も高く、美しい空間性を持ち、場所の持続性を熟慮し、自然との調和、共生を考えることの複雑さ(単純な結論を出すべきでないということ)を再確認しなければならないということである。

それは、きわめて大きな自然の脅威の前においても同様である。言いかえれば、われわれは、いかなる人工的対策を企てても、『自然の脅威をも内包した、大きな自然に抱かれて、生かされているという認識』を持つべきだ、ということではなかろうか。

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