会社案内

社長 細田雅春より

代表取締役社長

弊社代表取締役社長・細田雅春の取材記事や発表した文章などを随時掲載しております。

人体の免疫システムと建築の防御
人知を超えた役割生かす「見識」

テロ問題が都市や建築の世界に大きな課題を投げかけている。日本では未だその脅威に直接は晒されてはいないが、社会的犯罪や殺人事件などが日常化している昨今、テロの問題も現実として捉えなくてはならないことは言うまでもない。その流れを受けて、国会でも「特定秘密保護法」や「共謀罪」(テロ等準備罪)法案などの法制化が既になされているが、その中身については、依然として多くの不安や疑義的論議が白熱している。それだけこうしたテロや犯罪対策は、その定義など、枠組みそのものに対するものも含めた難しさがあるということであろう。

過日、イスラエルの都市部でのテロ対策についての話を聞く機会があったが、その行動規範の実効性の高い施策に驚かされた。とりわけ、爆発物による同時多発テロ、自爆テロなど巧妙化にどう対処するかはイスラエルという国ですら困惑しているという現実がある。日本では2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、訪日観光客による経済活性化に大きな期待が寄せられているが、そうした現実とのあまりの落差に唖然とした思いである。

「開く」と「閉じる」 相反する今日的テーマ

ところで、いま都市や建築の分野では、より外に対して開かれて、広く社会に開放されることを重視する思想傾向にある。元来、建築や都市は「守ること」が主要な課題であった。しかし、現代社会では社会に向けて「開かれること」が主要なテーマになってきた。つまり、市民に開かれた都市や建築のあり方を示すことがいかに大切かが議論されてきたのである。いまなおその議論は大きな今日的テーマとなっている。

一方、そうした開かれた都市や建築という考え方とは相いれないテーマもいままさに今日的になってきている。すなわち、冒頭に述べたような外部からの犯罪やテロなどの襲撃に対して、いかに防御の形を生み出せるかということである。その都市や建築にまつわる、いわば相反する二つの今日的テーマに同時に、しかも破綻なく応えることは極めて困難であることは、改めて強調する必要もないだろう。

単にハード的な側面だけで応えることは極めて困難であることは明白である。「開く(受け入れる)こと、閉じる(守る)こと」を同時に解決しなければならないからである。

人体の複雑な機能や生態システムに学べ

こうした問題に対しては、人体における免疫システムの働き方が参考になるのではないか。説明するまでもないが、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体、毒素などの異物を攻撃し、排除してくれる生体機能である。免疫には大別して自然免疫と獲得免疫があるが、よく知られている「ナチュラルキラー細胞」は自然免疫の典型だ。がん細胞や外部から侵入したウイルスに感染した細胞などの被害を防ぐ、元気印の免疫機能である。いわゆる異物全般に対して即効性はあるものの、その効果は一時的なものにとどまる場合が多い。一方の獲得免疫とは、身体が特徴を記憶した特定の病原体を、選択的に排除する免疫機能で、集中的な攻撃が可能である。

この免疫機能が異常に働き過ぎると、アレルギー反応が起きたり、人体にマイナスの現象が引き起こされるが、大阪大学免疫学フロンティアセンター特任教授の坂口志文博士が発見した「制御性T細胞」は、そうした過剰な免疫の働きを抑制的にコントロールしていることがわかってきたという。

こうした免疫の働きはわれわれの社会や都市・建築の世界を考えるのに大きなヒントを与えてくれる。人体は一つの個体として閉じた存在ではあるが、同時に外に開かれた存在でもある。人間は外界からのエネルギーを自分の身体の内部に取り込むことで活動するが、その活動は自分の身体の外部に向けられ、地球規模でのコミュニケーションにまで至っている。人体と建築、都市をアナロジカルに比較してみると、免疫システムをはじめ、人体の複雑さから学ぶべき点は極めて大きい。こうした生態システムは、われわれの社会の動きに強く働きかけることになるだろう。

期待されるAI活用 どう「線引き」課題に

そこで筆者が期待することは、AIによる免疫システムの応用である。「開く(受け入れる)こと、閉じる(守る)こと」の相反する課題を解決するにはAIによる支援を強化するしかない。ハードな形ではなく、システムとしてのAIへの応用を展開させることである。

もちろん、AIの応用自体は現在では珍しいことではない。例えば、米国国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)で進められているという自分で敵を見つけ出して攻撃する自律的なAI兵器、ハンターキラー・ロボットの開発などがその典型と言える。

さらに高度なセンサーが爆発物などの危険物だけではなく、人間の挙動などから高度な判断を下すというような、人間の英知を超えた役割を期待することになるのではないだろうか。そのようなAIによるいわば閉じた防御に対し、一方で開かれているべき都市や建築のあり方をどのようにバランスさせるかは、それこそ「人間の見識」に期待するほかないということであろう。

無論、都市や建築の未来像を安易に語ることはすべきではないが、ハードな都市や建築の中には、人間の目には見えてこない分野がある以上、人知を超える可能性を期待されているAIにその役割を担ってもらうことが大切だということになる。人間が都市や建築を含めた社会の現実のすべての課題(問題)を解決することなどできるわけはないからである。しかしながら、人間とAIの両者がどのように互いに関わっていくべきなのか、その線引きという「見識」は人間そのものに課せられた課題であることを忘れるわけにはいかない。

時代は建築界にとっても、まさに新たな局面を迎えつつある。

日刊建設通信新聞
 2017年8月2日掲載
2020年5月13日
今、アテネ憲章に代わるもの―都市の形 – 多様性を包摂する社会で建築家は何を示せるか
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建築が評価されていない – 形態を持たない建築
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場所を喪失した現代社会
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農業の未来と都市化
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